平成23年2月22日(火)〜24日(木)に北海道開発局研修センター(札幌市東区)で開催された
平成22年度 第54回
北海道開発技術研究発表会において,耐寒材料チームの下谷裕司前研究員がカテゴリー「環境」,遠藤裕丈研究員がカテゴリー「積雪寒冷地維持管理技術」で論文発表を行い,下谷前研究員が北海道開発協会長賞,遠藤研究員が奨励賞を受賞しました.
下谷前研究員が発表した論文は「再生粗骨材の塩化物濃度の簡易測定手法に関する検討」(共著者:吉田行・田口史雄(耐寒材料チーム))です.
現在,コンクリート解体材より製造される再生骨材は主に路盤材などに利用されておりますが,その需要は減少傾向にあり,資源の循環利用の観点から,再生骨材をコンクリート用骨材として利用するための取り組みが各方面で行われております.近年では,コンクリート用再生骨材に関する日本工業規格(JIS)も制定され,今後その需要は増加していくものと考えられます.
しかしながら,再生骨材は不特定多数のコンクリート構造物を取り壊して製造されるため,品質のバラツキが大きく,その検査頻度も多いことから,効率的な品質管理方法が必要となります.特に,積雪寒冷地のコンクリート構造物は,海岸部の飛来塩分の影響に加え,塩化物系凍結防止剤の影響を受けており,このような構造物を取り壊して製造される再生骨材には塩化物が残存している恐れがあるため,再生骨材中に含まれる塩分の管理が重要と考えられます.
しかしながら,現行の再生骨材の塩化物濃度の検査方法では,塩化物の抽出や定量を行う際,各種薬品や器材等が必要であり,またその方法も煩雑です.このため,本論文においては,熱水を用いて再生粗骨材中の塩化物を抽出し,現場等でレディーミクストコンクリートの塩化物濃度管理に用いられている試験紙タイプの塩化物濃度測定計により塩化物濃度を定量する簡易法を考案し,その適用性を検討しています.この結果,簡易法により再生粗骨材の塩化物の管理指標である全塩化物濃度を推定でき,簡易法が再生骨材の塩化物濃度の検査に適用できることが明らかになりました.本成果の活用により,再生粗骨材の品質管理の効率化に寄与することが期待されます.
遠藤研究員が発表した論文は「シラン系表面含浸材の適用による費用対効果の一試算」(共著者:田口史雄(耐寒材料チーム)・名和豊春(北海道大学大学院工学研究院))です.
シラン系含浸材は,コンクリートの表層に吸水抑制機能を付与し,コンクリートの凍害および塩害の要因である水や塩化物イオンの侵入を抑えることでコンクリートの耐久性を高めることを目的に使用される浸透性の保護材です.施工性に優れ,コンクリートの外観を損ねることがないため塗布後に目視点検が容易であることから,道路橋の地覆や高規格幹線道路の剛性防護柵(壁高欄)を中心に施工事例が増えています.一方,実務においては,シラン系表面含浸材を適用するために投じたコストが得られる便益や価値(部材の性能保持に対する満足度)に見合っているかを総合的に評価することも非常に大切です.
本論文は,北海道内の道路橋の地覆で行った試験施工・追跡調査で取得した実測データを用いて,シラン系表面含浸材の適用によってもたらされる費用対効果を試算した結果をまとめたものです.鉄筋の腐食防止を要求性能に設定し,塩化物イオンの浸透量を部材性能のバロメーターとして,Hudsonらの理論に基づいた解析を行い,製品の種類や現場の条件にもよりますが,コンクリートの表層に形成された吸水防止層の性能を保持するための路面排水性の管理およびシラン系表面含浸材の再塗布インターバルの設定を適切に行うことで,本検討の範囲内では無塗布に比べて1.5倍以上の費用対効果が得られたことを述べています.劣化対策工の費用対効果について論じられた文献は少なく,本論文で示した考え方は対策工選定の合理性の評価技術の向上に資することが期待されます.
なお,標記の発表会では,155編の論文(自由課題)が発表され,このうち6編が北海道開発局長賞,4編が寒地土木研究所長賞,5編(本編含む)が北海道開発協会長賞,14編(本編含む)が奨励賞を受賞しています. |